iOS14の広告エコシステムの将来像
Paul H. Müller, Key Advisor to the CEO, Adjust, 2020年7月01日.
Appleが2020年のWWDCで発表したユーザープライバシーに関する変更は、多くの業界関係者を驚かせるものでした。そして、これらの変更点が我々が知るモバイル業界に終わりをもたらしたという声が多数挙がっています。
Adjustでは、多くの人が考えるほどこの変更が業界の重要な分岐点となるとは考えていません。しかし、9月のiOS14リリース前に多くの技術的な問題を解決する必要があることを念頭に置きながら、この数日間、今後進むべき最善の道筋をマッピングしてきました。
Adjustはいくつかの課題を明確にするため、Appleと緊密に連携をとっています。今回発表された新しいルールを個々の要素に分解し、広告エコシステムのさまざまなプレイヤーにどのような影響が及ぶのかを分析することで、Appleが提案する規制の意図をより明確にしていきます。
SKAdNetworkとAppTrackingTransparencyの比較
まずは、Appleが提示したアトリビューションと広告効果測定のための2つの主要なオプションを理解することが大切です。この2つは同じ問題に対して異なるアプローチをとるものなので、混同しないように気をつけてください。
まずAppleは、IDFAへのアクセスにユーザーの同意を必要とするAppTrackingTransparency (ATT) フレームワークを導入しました。さらにAppleは、現状のアトリビューションと同様の機能を提供することが可能なフレームワークを例外に挙げました。Adjustは、このフレームワークに焦点を当ててルールに準拠したツールを作成することが将来に向けての最善の方法だと考えています。これに関してより深く掘り下げる前に、もう1つのソリューションを説明します。
SKAdNetwork (SKA)は全く異なるアプローチをとり、アトリビューションに対してユーザーレベルのデータを完全に削除します。 それだけではなく、アトリビューションの負担をプラットフォーム自体に課すことになります。
これには3つの根本的な問題があります。
- 1つ目の問題は、今日のユーザー獲得においてはユーザーレベルのデータが必要であり、ユーザーのプロファイリングやターゲティング広告の配信のためではなく、キャンペーンのパフォーマンスを詳細に分析する上で欠かせないということです。ランダムに24時間以内に送信されるSKAの6ビットのコンバージョン情報には、競争の激しいパフォーマンス重視のユーザー獲得キャンペーンを管理するためのインサイトが著しく不足しています。マーケターは継続率のデータや収益計測、あるいは詳細なイベントデータなどを受け取ることができなくなるため、現在実施しているような広告キャンペーンが不可能になります。実際に、SKAで計測されるデータとMMP(モバイル計測ツール)のSDKで計測される詳細なアプリ内イベントのデータは結び付けることができません。そのため、全てのキャンペーン分析はインストール指標のみに制限されます。
- 2つ目の問題は、SKAが提供する集約データの粒度レベルに関係します。SKAのフレームワークでは、各ネットワークに対して100種類のキャンペーンしか確認することができません。ネットワークあたり平均15件ほどのキャンペーンを実施する場合なら、それほど大きな問題ではないと思うかもしれませんが、大半のキャンペーンには、地域、デバイスの種類、クリエイティブなど無数のサブレベルが存在します。例えば、5か国で10のクリエイティブを使用する施策をとった場合、SKAではネットワークごとに 2つのキャンペーンしか許容できません。各デバイスのランダムなデータ遅延などと相まって、細かいリアルタイムの意思決定を行うことはほぼ不可能であることを意味します。
- この分野で多くの経験を持つMMPからアトリビューション計測を奪えば、イノベーションが抑圧される可能性があります。 SKAのバージョン 1.0 から 2.0 へのアップデートで小規模な変更がありましたが、インストールを促進する広告に関して、顧客のニーズに対応できないことが示唆されています。SKAはディープリンク (遅延または条件付き) を行う機能を持たず、ダウンロード以外をアトリビュートしません。アドフラウドに関して言えば、せいぜい広告のほとんどを最初から実施しないことくらいしか解決策がありません。
MMPは、自由に設定でき、意義のあるアトリビューションを提供することを目的としています。これにより、クライアントは新しいユーザーをアプリに誘導し、既存ユーザーの継続率を最適化するために何十億ドルをも費やすことができます。また、競争の中で、この業界の成長を促進させた最も先進的な技術が育ちました。これらの理由から、この業界の将来の基盤をSKAに頼るのは良策とは言えません。
ユーザーの同意:課題とチャンス
現時点では、ATTが導入するポップアップメッセージを見てIDFAへのアクセスを許可するユーザーはほとんどいないでしょう。ユーザーはデータを必要以上に提供することを懸念します。データの使用用途が説明されていない場合は特にそうです。
しかし、Appleが同意管理システムを導入したことで、ユーザーが自分のデータがどのように使われるかをより把握できるようにしました。つまり、ユーザーがアクセスを許可した場合のメリットを説明する機会が与えられたということです。
今日のユーザーレベルのアトリビューションでは、広告を表示するソースアプリのIDFAと、広告が宣伝するターゲットアプリのIDFAにアクセスする必要があることを覚えておきましょう。これらの2つの立場を分析することで、対策を検討するのがより容易になります。
アプリが広告を通じて収益化され、ユーザーに無料サービスを提供する場合なら、IDFAへのアクセスの同意を得ることも不可能ではありません。現にほとんどのユーザーは、ソーシャルメディアや検索エンジンを使用する際にそれを許可しています。
単にポップアップを表示して許可を求めるのではなく、アプリがユーザーのデータをどう利用し、なぜそれを必要とするのかを説明できます。たとえば、今日の多くのニュースウェブサイトでは、有料サブスクリプションを利用するか、あるいは広告を表示するサイトを閲覧するかをユーザーに選択してもらっています。同様に、アプリにおいてもこのモデルは現実的で可能なオプションです。
このアプローチのもう1つの利点は、アプリがユーザーに繰り返し尋ねたり、アプリの価値を理解してもらった後に、ユーザーに許可を求めることができることです。これは、多くのアプリで見られるプッシュトークンの仕組みと同じです。例えば、はじめにプッシュ通知でアプリのユーザー体験を向上させることを説明する開発者のメッセージが表示され、次に、システムポップアップが表示されます。ATTのポップアップが表示されるのは、アプリ画面にIDFAにアクセスする理由とユーザーメリットが表示された後となります。
IDFAへの同意とアクセスのタイミングはソースアプリでは重要ではないので、企業側は、ユーザーを説得する時間も作れます。また、ユーザーに状況を速やかに理解してもらうために、許可を求めるフレームワークを業界で標準化させる取り組みを開始するのも有益です。このようなフレームワークによって、ユーザーもデータ使用をより明確な情報のもとで許可することができます。
Steve Jobsは、「彼らに尋ねる」(消費者)ことによって、彼らが何にサインアップし、あなたがデータで何をしようとしているのかを正確に知らせなさい、と言及しました。
ターゲットアプリにおいては、この手段を採用するのははるかに困難かもしれません。アトリビューションは通常リアルタイムで発生するため、非常に早い段階でユーザーから同意を得る必要があります。特に、ユーザーからダイレクトに収益化を行うアプリの場合、「他の企業が所有するアプリやウェブサイトにまたがってトラッキングする」や、「パーソナライズされた広告をユーザーに配信する」ことに対して同意を得ることは困難かもしれません。
それではどんなオプションが考えられるでしょうか。
デバイス上のアトリビューションと同意の細分化
Appleは、IDFAへのアクセスについて、ユーザーの同意に関し次の2つの例外措置を設けています。
1つ目は、ユーザー識別子やデバイス識別子が送信されない限りにおいて、デバイス上でIDFAを使用する方法を説明しています。
Adjustや他のMMPは、現在、IDFAをデバイスから転送せずにアトリビューションを可能とする、ゼロ知識定理(暗号学で使われている、証明プロトコルの一種)等を用いた暗号化ソリューションに取り組んでいます。ソースアプリとターゲットアプリのデバイス上で使用する必要がある場合は難しいかもしれませんが、ソースアプリからIDFAを受け取ることが許可され、ターゲットアプリのデバイス上のみでマッチングを実行すればよい場合は、これが解決策になることは容易に想像できます。
私たちはAppleとアイデアを共有し、近いうちにそのような解決案が承認されるよう取り組みます。
Adjustでは、ソースアプリで同意を取得し、ターゲットアプリでデバイス上のアトリビューションを実施することが、iOS14におけるユーザーレベルのアトリビューション計測の最も有効な方法だと考えています。
デバイス上でアトリビューションができる可能性があるもう1つの技術は、 私の前回のブログで説明したGooglePlayStoreリファラーと同様のソリューションを導入することですが、AppleがAppStoreにそのようなAPIの追加を検討するかどうかは未だに不明です。
またAppleは、MMPがアトリビューションの目的に限りターゲットアプリのIDFAの読み取りを許可し、セグメンテーションや他の当事者へのデータ転送などの追加製品に対しては、ATTの許可を要求するような措置を取る可能性もあります。これにより、MMPは、ターゲットアプリの範囲外でIDFAを使用することなく、ルールに準拠した効果測定を提供できます。
MMPはIDFAを誰とも共有することなく、アプリパブリッシャーの拡張機能としてのみ動作します。
Appleは、ルールに従わないMMPには、特定のSDKにIDFAへのアクセスを許可しないことにより、数少ないMMPを監査する効果的な枠組みを有しています。プライバシーを重要視する企業として、Adjustはこのシステムを歓迎し、奨励します。
Adjustは、他のMMPやお客様、パートナー様と協力して、AppleのAppStoreチームとこれらのオプションについて協議します。9月のiOS14のリリース時期までに、AppTrackingTransparencyフレームワーク内で動作するソリューションを見つけたいと考えています。
次のステップ
私たちは一業界として、iOS14の新しいルールに適応し、この機会を活かしながら、アプリ開発者や広告主にとって持続可能な未来を創出していく必要があります。
またAdjustでは、広告を通じて収益化を図るアプリにとってユーザーの同意を得ることは極めて重要であり、かつ広告主に対しユーザーレベルのアトリビューション計測と粒度の細かいデータを提供するオプションがATTフレームワークにも存在すると考えています。
AppleやAdjustのお客様、パートナー様、その他のMMPと協力して業界の将来を形作っていけるよう取り組んでまいります。
今後のアップデートにご注目ください。
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