iOS14でのモバイル計測:考えられる4つのシナリオ
Paul H. Müller, Key Advisor to the CEO, Adjust, 2020年6月26日.
Adjustは常にユーザープライバシーを重視し、強化するための対策に取り組んできました。そのため今週Appleが発表したiOS14の変更点は、Adjustが掲げる企業方針とほぼ一致するものでした。AdjustとAppleには、ユーザーデータの悪用や計測以外の目的に使用されるのを防止するという共通のミッションがあるのです。
しかしAdjustでは、Appleが示すトラッキングの定義を明確にする必要があると考えています。「他社が所有するアプリやウェブサイトを横断した『ユーザー』の計測」に異議を唱えるAppleの同意書には、Adjustが実際にデータをどのように処理するかについては記載されていません。
GDPR(EU一般データ保護規則)に準拠したデータプロセッサー、およびCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)のサービスプロバイダーとして、AdjustではIDFAを単一のアプリの範囲内のみに使用しています。デバイスIDが異なるアプリパブリッシャー間で使用されることはありません。パーソナライゼーション(「あなたのデータは、パーソナライズされた広告を表示するために使用されます」)はAdjustが提供するソリューションの一部ではありません。Adjustは、Appleが構想するプラットフォームとグローバル展開するiOSの広告エコシステムの未来をより深く理解するために、引き続きAppleと緊密な連携体制をとっていきます。
iOS14が今秋にリリースされる際に考慮しておきたい点は、以下のとおりです。
- IDFAは完全になくなる訳ではなく、代わりに、明示的な同意が必要になる。
- IDFAが使用できない場合は、SKAdNetworkが基本的な情報提供を行う可能性がある。
- フィンガープリントは、規則に準拠したアトリビューション計測を提供するためのオプションとして、引き続き使用される。
しかし現時点では、多くの重要な点が不明なままです。特に以下のような疑問が存在します。
- SKAdNetworkはマーケティングの効果的な意思決定に必要とする粒度のデータを提供できるのか?
- SKAdNetworkの使用時にディープリンクはどう機能するのか?
- この新たな環境下でアドフラウド防止はどう機能するのか?
- ユーザーのオプトイン率にはどう影響するか?
今回発表された変更点はまだ市場で展開されていないため、業界標準となるソリューションも現時点では存在しないことを強調しておきます。つまり、業界が過去数年にわたり信頼をおいてきたものと同レベルの精度と透明性を備えた製品は今のところ存在しません。
この問題をすぐに解決してくれるソリューションがあると主張する企業は、機能における重要な側面を見落としていると断言できます。想像に難くないとは思いますが、この発表は月曜日(2020年6月22日)に行われたばかりで、あらゆる点がまだ不明確だからです。
SKAdNetworkの仕様を見てみると、現代のマーケターのニーズを満たすことができるとは思えません。
- Appleが定義するように、ダウンロードと再ダウンロードの前の最後のリダイレクトのみがアトリビューションのトリガーとなります。つまり、設定可能なアトリビューション設定や、ビュースルー、休眠ユーザーのリアトリビューション、あるいはマルチタッチなどの機能は提供されないことを意味します。
- ユーザーレベルのデータは提供されず、最終的な指標として単一の6-bit valueのみが提供されます。つまり、継続率、収益、イベントファネル、または現在の一般的なKPI情報を取得することができません。
- 強制的な広告フォーマットであるSKStoreProductViewは、動的なディープリンクまたはディファードディープリンクをサポートしません。
- リターゲティングや除外ターゲティングを行えません。
- 不正防止のためのサポートやデータの透明性が不明瞭なままです。
これら全ての点は、今後明らかになっていくでしょう。しかし、これにはアプリ開発者、Apple、MMP (モバイル計測ツール)、アドネットワーク、そして業界全体による取り組みと多くの時間が必要になります。SKAdNetworkを十分に検討することなく、デフォルトのソリューションとして採用することで、Adjustのお客様とパートナーへのサービスを損なうことになります。
Adjustは、複数の業界リーダーと議論した結果、アトリビューションとより大規模な広告エコシステムにとって考えられる潜在的なシナリオを4つ特定しました。
オプション1:Google Playストアリファラーに似たiOSリファラー
今のところ、SKAdNetworkはアドネットワークにデータを提供するだけで、他の誰にとっても透明性はほとんどありません。しかし、ユーザーのプライバシーを保護しつつ広告主に透明性を提供するアプローチがひとつあります。それは、AppleのSearch Ads SDKやGoogle PlayストアリファラーのようなAPIを新たに取り入れることです。
そうすれば、現在のアトリビューションロジックが劇的に変化することはないため、MMP、アドネットワーク、クライアントは業務を大幅に中断することなく継続することができます。
このオプションのメリットは、アトリビューション計測はMMPによって行われ、アドネットワークはコールバックを受け取り、広告主は信頼できる唯一の情報源を確保することができることです。最終的な全ての指標は一貫性を保ち、何よりも、この場合IDFAが不要なため、プライバシーを推進するAppleのポリシーに準拠します。
さらに、同じ技術がAndroidとiOSで何年も使用されているため、業界全体にとってすでに馴染みがあるオプションだと言えます。
もちろんこれで全ての問題が解決するわけではありませんが、この方法により、正確且つ検証可能で、透明性のあるアトリビューションを提供することができるでしょう。
オプション2:フィンガープリント
フィンガープリントは今回の変更による影響を受けないため、おそらく最も簡単に採用できるソリューションだと言えます。フィンガープリントを使用する場合でも、アドネットワークはアトリビューションを行い、コールバックを送信し、広告主にデータを提供できるMMPにクリックを送信できます。データの流れは現状と全く変わりませんが、フィンガープリント情報により多く依存することになるでしょう。
GDPRとCCPAは、他の目的で使用されないことを条件に、正当な例外の下、アトリビューション目的でデータを収集する法的枠組みを提供しています。
しかし、Adjustではこれが理想的なソリューションであるとは考えておらず、むしろフィンガープリントに頼ったアトリビューションは好ましくないと主張してきました(関連記事はこちらをご覧ください)。理想的ではありませんが、Adjustはそのようなシナリオにおいてフィンガープリントを元にした計測の正確性を最大限に高めるため、ソリューションの研究を開始しました。
オプション3:オプトインの義務付けまたは奨励
アプリパブリッシャーや広告主との協議で出たアイデアのひとつは、IDFAを読み取る許可をユーザーに要求、あるいは推奨するかということです。
広告収益に頼っている無料のゲームアプリがあるとします。IDFAがなければ収益化はより困難になるため、パブリッシャーはユーザーに広告なしの有料版を購入してもらうか、IDFAへのアクセスを許可してもらうかの選択肢を提供することになるかもしれません。
ソーシャルメディアアプリの場合なら、利用規約の一部としてデータの計測を許可することを必須条件とし、ユーザーが同意しない限り、アプリを利用できないようにすることも考えられます。
これが業界に重大な変化をもたらすのは明らかです。ユーザー体験が変わることで、ユーザーの全体的なエンゲージメントも低下する可能性があります。このアプローチに対してAppleがどんな反応を示すかは依然として分かりません。
しかし移行段階の後には、広告マーケティングのエコシステムは、今日とかなり似ているものとなるでしょう。
オプション4:アトリビューション計測のための、より粒度の高い許可設定
前述のように、Adjustでは、広告の効果測定を提供することと、複数のアプリやウェブサイトを横断してユーザーを計測することは、全く異なるものと考えています。Appleはすでに、ユーザーのオプトインなしでIDFAを取得するための特例をいくつか提供しています。よって、Appleが考えるプライバシーとオプトインに準拠する方法で、IDFAを元にしたアトリビューションを提供する何らかのソリューションがあるかもしれません。
現時点では、これらの例外については明確にされていません。とはいえ、Adjustは引き続きクライアントやパートナーと協力して、このオプションの可能性を追求し、理解を深めていきたいと考えています。
また、WWDC(世界開発者会議)で発表された変更は、アトリビューションだけに影響を与えるものではないことも考慮しなければなりません。業界のエコシステム全体が、今回の変更にどう対応するのが最善かを理解する必要があります。アプリパブリッシャーは大小を問わず影響を受けるため、自社のビジネスの見直しが求められます。今は、対応策の発表を急いだり、あわててマーケティングの方針を変更したりするタイミングではありません。
Adjustはこれまでと同様に、お客様とパートナー様の継続的な成長をサポートする、実行可能なソリューションに取り組んでまいります。今回の変更点を慎重に検討し協力し合うことで、初めて業界が新しいルールに適応し、変化を受け入れられるようになるのです。
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